「市民集会」で講演する
川人博弁護士
昨年は、過労死・過労自殺事件にとって、極めて重要な1年でした。
3月、自殺した24歳の青年労働者に対する企業の健康管理義務が問われた『電通過労自殺事件』において、最高裁は、「疲労や心理的負荷が過度に蓄積すると、労働者の健康を損なう危険のあることは周知のところであり、使用者は、……労働者の心身の健康を損なわないように注意する義務を負う」と明快に断じ、さらに、企業側からの労働側にも落ち度がある(過失相殺)という主張も退けたのです。その後の和解で、遺族は会社から約1億7000万円の和解金をかち取っており、まさに、我が国の人権裁判史上でも画期的な出来事でした。この判決以降、『オタフクソース事件』や『川鉄事件』でも、企業が謝罪し、多額の損害賠償金を支払うという解決が相次いでいます。
「110番」を報じる
朝日新聞
ある統計によれば、昨年は、定期健康診断で健康に問題のある人は、42・8%と過去最悪を記録し、また、自殺者も3万人を大きく超え、やはり、過去最悪だそうです。人間ドック受診者の80%以上に「異常」が見られるといわれており、働く者の心身には、慢性的な疲労とストレスが襲いかかっているといえます。過労死・過労自殺の予備軍は、不況とリストラの嵐の中で、むしろ増加しつつあるのです。
このような中で、裁判において、企業には、労働者を過労死(過労自殺)させてはならないという「安全配慮義務」があることが明確になったことの意義は、極めて重要です。
これらの判決を活かし、職場で放置されているサービス残業などを止めさせ、労働者の健康を守り、権利を擁護する、これが、21世紀の我々に課せられた大きな課題であると考えます。
今年も、11月18日、「自殺・過労死110番」全国一斉電話相談が当事務所において実施されました。
北海道では、5件の相談のうち労災補償相談が2件、予防働き過ぎ相談が2件でした。相談数は前回よりも減りましたが仕事が原因で亡くなる人、病気になる人がいるという現状には変わりありません。
現状を変えるということは本当に大変な事だと思いますが、まずは、労働者自身が今の職場を見直し、そのことについて話し合っていくことがその第一歩なのではないかと「110番」活動を通じて感じました。